村田真のXMLブログ

日本人で唯一W3CのXMLワーキンググループに参加しXMLの標準化プロセスに携わったXMLの生みの親、村田真さんのブログです。

2008年06月 アーカイブ

ODFとOOXMLを改良していくために

1980年代から、オフィス文書の交換フォーマットの標準化は、惨めなばかりの
失敗を繰り返してきた。最近、ODFとOOXMLが現われたことは慶賀すべきことで
ある。どちらも実装が存在している(解説:Open Document
Formatの標準化について
を参照)。

しかし、どちらも決して完璧な仕様ではないことは指摘しておかなければなら
ない。

OOXMLには、BRMで積み残しになった問題点のほかに、デザインの不統一(たと
えば、WordprocessingMLでは属性はnamespace-qualifyされているが、他の部
分ではされていない)などはいくつもある。問題点については、数多くの指摘
がなされているが、ここでは触れない。

ODFは、まったく説明の足りない仕様である。図はほとんどなく、文章はスキー
マにコメントをつけた程度のものに過ぎない。ODFのRELAX NGスキーマは、
RELAX NG DTD Compatibility(OASIS Committee Specification)に違反してい
る(a:defaultValueID/IDREF)など数多くの問題を抱えている。ODF 1.0は、
普通のプロセスを経ていたら、ISO/IEC規格として承認されないレベルである。
なお、最後の文は、ODFのJIS原案作成委員会で、私以外の委員から出た
発言である。

完璧でなくても、やっと現われた標準である。ODFとOOXMLを改良し、まっとう
なものに育てていく必要がある。そのためには、真っ当なコメントをしなけれ
ばならない。私は、XML 1.0の成立時に大量のコメントをした。それは多少の
貢献だったと自分では思っている。コメントに応えて仕様を改善するという作
業を繰り返さなければ、仕様は決して成熟しない。

その意味で、ODFに問題点はいくらでもあるのにコメントがとても少ないのは不思議
である。ODFに賛成する人たちは、贔屓の引き倒しをしているのではないか。また、
ODF陣営も、コメントに対してもっときちんとした対処をすべきである(私のメール
を参照)。

OOXMLのDIS投票のときのコメントは玉石混交であった。その一部はBRMによっ
て解決された。しかし、まだ問題は残されている。地道な改善を続けていかな
ければならない。

OOXMLのメンテナンスについては、SC34がオスロ会議でさまざまの決定を行って
いる。私がコンビーナを勤めるOOXML Ad-hoc Group 2(これはSC34の中にある)は、
OOXMLの欠陥に関するコメントを各国および一般から集めるためのWebフォーム
を準備している。これをいつ公開できるかは、アピールの行方によって左右さ
れるが、できるだけ早く公開したいと考えている。


投稿者: 村田 真 日時: 2008.06.16 | | コメント (0) | トラックバック (0)

OOXMLへの不当な批判

OOXMLへの批判には正当なものもあるが、不当なものもある。不当なものの例
として、ODFとまったく同じことをしているのにOOXMLだけが批判されるという
のがある。

その一例は、OLEに関する批判である。OOXMLはOLEを使っているからWindows
環境に依存していると批判者は言う。しかし、ODFもOLEを使っているのだ。そ
して、Windows環境以外でも動作するために、OLE以外の類似機構の使用を認め
ているという点でも、ODFとOOXMLは似ている。それなのに、なぜOOXMLだけが
批判され、ODFは批判されないのだろうか。なお、詳しくは、この記事
(OOXMLを批判する論調で書かれているが、実はODFに対する批判なのだ!)を
参照されたい。

日本における不当な批判として、ITProの記事にあるものを挙げておく。

XMLには「情報の構造が階層構造になる」という設計思想があるが, OOXMLにはこれに反する記述が多数含まれているという。このような 実装では,XMLパーサーで検出することができず,XMLパーサー利用 を前提としているソフトウエアにとっては大きな痛手になると鈴木氏は言う。

確かに、OOXMLでは、文書の論理構造とはずれた構造を、空要素によって表現
している(moveFromRangeStart空要素やmoveFromRangeEnd空要素など)。しか
し、これはODFでもまったく同様なのだ。例えば、ODFのtext:change-start空
要素とtext:change-end空要素は、論理構造とは別の階層構造を表すものに他
ならない。

論理構造と別の構造を表現することは校正支援などに必要なのだが、XMLでは
うまく行なえない。これはSGMLのころからずっと問題になってきたものであり、
数多くの人がいろんな取り組みをしてきた。日本でも「原稿校正標準マーク付
け言語(SPML)」という試みが、INSTACの電子出版技術調査研究委員会で2003年
に行われた。私も、以前に論文を書いたことがある(博士論文の材料にもし
た)。しかし、まことに残念ながら、過去10年以上の取り組みにも関わらず、
抜本的な回答は出ていない。

SGMLを利用するText Encoding Iniativesでは、Multiple Hierarchiesという
節をさいて、この問題を論じている。OOXMLとODFが採用している方法は、TEI
が導入したmilestone要素に他ならない。現時点において、milestone要素は
いちおう実用になる数少ない方法の一つである。たしかに欠点は存在するが、
これを上回る方法を誰が提案できるのだろうか。

なお、OOXMLではmilestone要素以外に、同じくTEIに由来するvirtual要素も用
いられている。milestone要素とvirtal要素は、帯に短し襷に長しなので、
併用されるのはまったく不思議ではない。

投稿者: 村田 真 日時: 2008.06.26 | | コメント (0) | トラックバック (0)

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