村田真のXMLブログ

日本人で唯一W3CのXMLワーキンググループに参加しXMLの標準化プロセスに携わったXMLの生みの親、村田真さんのブログです。

OOXMLへの不当な批判

OOXMLへの批判には正当なものもあるが、不当なものもある。不当なものの例
として、ODFとまったく同じことをしているのにOOXMLだけが批判されるという
のがある。

その一例は、OLEに関する批判である。OOXMLはOLEを使っているからWindows
環境に依存していると批判者は言う。しかし、ODFもOLEを使っているのだ。そ
して、Windows環境以外でも動作するために、OLE以外の類似機構の使用を認め
ているという点でも、ODFとOOXMLは似ている。それなのに、なぜOOXMLだけが
批判され、ODFは批判されないのだろうか。なお、詳しくは、この記事
(OOXMLを批判する論調で書かれているが、実はODFに対する批判なのだ!)を
参照されたい。

日本における不当な批判として、ITProの記事にあるものを挙げておく。

XMLには「情報の構造が階層構造になる」という設計思想があるが, OOXMLにはこれに反する記述が多数含まれているという。このような 実装では,XMLパーサーで検出することができず,XMLパーサー利用 を前提としているソフトウエアにとっては大きな痛手になると鈴木氏は言う。

確かに、OOXMLでは、文書の論理構造とはずれた構造を、空要素によって表現
している(moveFromRangeStart空要素やmoveFromRangeEnd空要素など)。しか
し、これはODFでもまったく同様なのだ。例えば、ODFのtext:change-start空
要素とtext:change-end空要素は、論理構造とは別の階層構造を表すものに他
ならない。

論理構造と別の構造を表現することは校正支援などに必要なのだが、XMLでは
うまく行なえない。これはSGMLのころからずっと問題になってきたものであり、
数多くの人がいろんな取り組みをしてきた。日本でも「原稿校正標準マーク付
け言語(SPML)」という試みが、INSTACの電子出版技術調査研究委員会で2003年
に行われた。私も、以前に論文を書いたことがある(博士論文の材料にもし
た)。しかし、まことに残念ながら、過去10年以上の取り組みにも関わらず、
抜本的な回答は出ていない。

SGMLを利用するText Encoding Iniativesでは、Multiple Hierarchiesという
節をさいて、この問題を論じている。OOXMLとODFが採用している方法は、TEI
が導入したmilestone要素に他ならない。現時点において、milestone要素は
いちおう実用になる数少ない方法の一つである。たしかに欠点は存在するが、
これを上回る方法を誰が提案できるのだろうか。

なお、OOXMLではmilestone要素以外に、同じくTEIに由来するvirtual要素も用
いられている。milestone要素とvirtal要素は、帯に短し襷に長しなので、
併用されるのはまったく不思議ではない。

投稿者: 村田 真 / 日時: 2008.06.26

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