村田真のXMLブログ
日本人で唯一W3CのXMLワーキンググループに参加しXMLの標準化プロセスに携わったXMLの生みの親、村田真さんのブログです。
韓国の動議
ストックホルムでのWG4(OOXML)会議での韓国の行動が面白い。
すべての議題を審議し終えた三日目のことだった。私はコンビーナ(委員長)
として、そろそろ閉会を宣言しようと考えていた。ところが、韓国のLee教授
(団長)がとつぜん手を挙げて動議と言い、休憩に入ることを提案した。何だ
ろうと思ったが、提案どおり休憩を宣言した。
どうしたんだろうと思って話を聞くと、ソウルで日中韓の非公式ワークショッ
プをやろうと言う。OOXMLやODFなどへの、日中韓共通の要求を洗い出そうとい
う提案だった。動議こそ突然だったが、この件には伏線がある。
日本の拡張提案
日本は、基本版面の指定をOOXMLに入れることを提案している。提案文書は
WG4 N0130である。EPUBへの拡張要求と同様に、この提案もW3Cの日本語
組版処理の要件に基づいている。拡張のためのスキーマ(RELAX NGとNVDLとで書
いてある)はWG4へのメールに示した。
他に、文字レパートリの制約機構をOOXMLに入れることも日本から提案してい
る(WG4 N0027)。たとえば、あるセルに対して、教育漢字しか使えないという制約
をつけることを想定している。文書のテンプレート一般に使えるものしたいと
考えている。技術的には、ISO/IEC 19757-7かつJIS X 4177-7である文字
レパートリ記述言語(CREPDL)をOOXMLから利用することになる。
どちらの拡張もいまはOOXMLについてしか提案していないが、当然ODFにも提案
すべきものだと私は考えている。日本のSC34専門委員会からODFの拡張を提案
するルートがいまだに良く分からない(SC34? ODF TC?)のだが、いずれは提案
することになるだろう。
韓国・中国との協調
基本版面については、ほとんど同じ要求が韓国・中国にもあるだろうと私は考
えている。拡張案について、協力を要請するメールを韓国・中国にずっと以前
から送ってあった。そのためかどうか分からないが、ストックホルム会議で中
国はサポートしてくれた。同じ要求があると言ってくれたのでととても助かっ
た。
この様子をみて、韓国は日中と協力することの重要性を認識したようだ。そこ
で冒頭に述べた動議となった。日中韓で協議している様子がAlex Brownのブロ
グに掲載されている。
韓国の提案で好ましいことの一つは、そのスピードだ。WG4の次回の対面会議
(フィンランド)の前に、急いでソウルワークショップを開催しようという。
つまり、WG4のスケジュールに遅れをもたらすことはないわけだ。結局、ワー
クショップは5/3 と5/4に韓国ソウルで開催されることになった(決議11)。日本として
も、このワークショップを歓迎し、真剣に準備をすすめているところである。
SC34における意味
IT技術では北米が大きな力を持っていることは疑いなく、標準化も北米中心で
進むことが多い。その結果、欧米の要求は最初からよく考慮されるが、それ以
外の文化圏からの要求についてはなかなかそうはいかない。
ISO/IEC JTC1における標準化は、国が一票を持つという特殊性がある。これは、
欧米以外の文化圏にとってはとても有利なことだ。SC34の場合は幹事国が日本、
議長が韓国、WG4コンビーナが私という布陣でもある。SC34は、欧米以外の
文化圏にとって有利な土俵だと考える。
ソウルワークショップから出された拡張要求は、OOXMLにおいても、ODFにおい
ても、きわめて重視されることになるだろう。SC34におけるきちんとしたメン
テナンスに期待して日本はOOXMLに賛成票を投じたが、その期待通りになるか
どうかがまもなく明らかになる。
感想
ワークショップの詳細については、いずれWG4およびWG6向けのレポートなどが
出るだろう。ここでは感想を述べる。
1) 韓国・中国は急速に力をつけており、積極的に取り組んでいる。いまの時点こ
そ穴のある提案が多いが、そういう欠点もやがて克服されるだろう。いっぽう、
日本の標準化関係者の様子(高齢化と停滞)からすると、日本はあと10年ぐらい
で中国・韓国にはっきり遅れをとるだろう。
2) ODFおよびOOXMLのISO/IEC規格化については、さまざまの報道があったが、
欧米以外の文化圏にとって有利な土俵になるという指摘はまったくなかった。
報道はそれほど信用できるものではないと思う。
投稿者: 村田 真 / 日時: 2010.04.25
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